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仙台高等裁判所 昭和60年(行コ)9号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

〈省略〉

理由

当裁判所も、控訴人らの被控訴人らに対する請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

一  当事者間に争いのない事実と〈書証番号等略〉、原審及び当審における控訴人牛来充、同浅野晋平の各本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。

1  全気象労働組合(以下「全気象」という。)は気象庁の内部部局、附属機関及び地方機関に勤務する職員(国家公務員法一〇八条の二の三項但書に規定する管理職員等に該当する職員を除く。)をもって組織されている職員団体であって、本件職場集会当時の組合員の総数は約四六〇〇名であった。

全気象は本部事務所を東京都千代田区大手町一丁目三番四号気象庁内に置き、昭和四六年当時は、その下部組織として地域別機関別に一八支部一七九分会を置いていた。

東北支部は右一八支部のうちの一支部で、仙台管区気象台及び同管区管内各下部組織に勤務する職員(前記管理職員等を除く。)をもって組織され、本件職場集会当時の組合員数は約四一〇名であった。

東北支部は、本部を仙台管区気象台内に置き、その下部組織として、青森、秋田、盛岡、山形、福島の各地方気象台、むつ、深浦、八戸、宮古、大船渡、酒田、新庄、若松、白河、小名浜、石巻、仙台航空の各測候所及び仙台管区気象台に一八分会を有していた。また、その最高決議機関は支部大会であり、その執行機関は支部執行委員会であって、本件職場集会当時の執行委員会は執行委員長平間健、副執行委員長角野迪夫、書記長牛来充のほか執行委員五名をもって組織されていた。

東北支部仙台分会(以下「仙台分会」という。)は仙台管区気象台に勤務する職員(前記管理職員等を除く。)をもって組織された、前記一八分会のうちの一分会であって、本件職場集会当時の組合員数は約一三〇名であった。

仙台分会本部は前記仙台管区気象台内に置かれ、下部組織としては原則として課別単位に班が置かれており、本件職場集会当時は総務、会計、業務、予報、観測、高層、通信、調査、測器及び築館気象通報所等合計一〇班があった。

また仙台分会の最高決議機関は分会大会であり、その執行機関は分会執行委員会で、本件職場集会当時は執行委員長浅野晋平、副執行委員長白石喜重、書記長内池浩生のほか執行委員七名をもって構成されていた。

2  全気象の春闘方針の策定等について

日本国家公務員労働組合共闘会議(以下「国公共闘」という。)は昭和四六年四月五日の第一〇回評議員会において、国公共闘七一年度統一賃金要求の最終決定をし、同月二〇日第一二回評議員会において、「ストライキを軸とする七月闘争にむけてのたたかいの計画」として、七月中旬に予定するストライキ闘争に向けての行動計画等を樹立し、更に五月二七日の臨時拡大評議員会において、「七月闘争の戦術及びスト目標の決定ととりくみの強化について」を策定、七月統一ストライキの実施日は、七月中旬の公務員共闘第二波統一ストライキ行動日とする、国公共闘の統一戦術は、始業時から二九分以内の全組合員参加の時間内職場集会の実施を基本とすること等を決定し、各単位労組に対し右方針にそって必要な指示、指導、取り組みを強めるべきことを指示し、七月一日の評議員会で七月一五日の職場集会を既定方針どおり実施することを確認した。その後七月一二日国公共闘の加盟する公務員労働組合共闘会議(以下「公務員共闘」という。)は、ストライキ宣言を行って七月一五日全国一斉に統一ストライキに突入することを宣言したが、これに対し総理府総務長官は、即日談話を発表し、公務員共闘並びにその傘下の関係職員団体及び関係職員に対して、国民全体の奉仕者としての公務員の自覚と反省を促すとともに、違法な行動にでることのないよう強く自重を求め、万一違法な事態が生じた場合には、法の規定に照らし厳正な態度で臨むものであることを表明し、あわせて公務員共闘会議議長に対して警告書をもって、右同旨の申し入れを行った。更に同月一四日内閣官房長官は、国家公務員全体に対し、右総理府総務長官と同旨の談話を公表し、重ねて違法なストライキにでることのないよう、その中止を要請するとともに、これに違反した場合の措置についても警告を行った。

全気象は、右国公共闘の春闘方針に従い、気象庁長官に対し、同年四月五日付「統一賃金要求書」を提出し、基本賃金を平均一万八〇〇〇円引き上げること等の要求を行う一方、勤務時間内くい込み職場集会敢行の準備をすすめ、同年六月一四日から一九日にかけて「七月ストライキ態勢確立のための一票投票」を実施したのにつづき、同月二三日から二四日にかけて全気象支部代表者会議を開催し、七月一五日始業時から勤務時間に二九分くい込む早朝職場集会を行う等の戦術方針を確認決定するとともに、そのころ指令第七一―一を発出し、各支部、各分会がこの職場集会をやりぬくことを指示し、更に七月一四日指令第七一―二を発出して、くい込み時間を二九分とする職場集会の決行を各機関に対して指示した。

右のような情勢の下において、気象庁長官は、七月一三日全気象中央執行委員長に対し、警告書をもって、違法な職場集会を行うことのないよう自重を求め、あえて違法行為にでるときは、法令に照らして必要な措置をとらざるを得ない旨の警告を行った。

3  全気象東北支部は、昭和四六年四月、東北支部第一三回定期大会を開催し、七一年度統一賃金要求を実現させるため、ストライキで闘うとの闘争方針を決定し、同月二八日仙台管区気象台長に対し統一賃金要求書を提出する一方、そのころ傘下各分会に対しても同様の措置に出るよう指示実行させ、五月二〇日の公務員共闘統一行動日には、七月実施予定の勤務時間にくい込む職場集会開催の体制づくりを目指して、東北支部傘下の仙台分会を含む一六分会に早朝時間外集会を実施させたのにつづき、六月五日東北支部分会代表者会議を開催して、右集会開催の体制の確立強化についての具体的討議を行い意思統一をはかった。そして、六月上旬から七月上旬にかけて仙台分会を含む傘下各分会に対して勤務時間にくい込む職場集会の参加を呼びかけるオルグ活動を行ったり、その間六月一四日から一九日にかけて傘下各分会ごとにいわゆる一票投票を実施し、東北支部組合員の約六四パーセント、仙台分会組合員の約六六パーセントの賛同を得、その後も引続き組合員に対し強力に右参加を呼びかけたうえ、七月五日から八日にかけていわゆる職場集会参加署名運動を行った。そのほか、かねてから支部機関誌「風林火山」をはじめとする各種組合関係ビラを支部組合員に配布し、七・一五職場集会の成功を訴え、七月に入ってからは職場集会の前日の七月一四日まで連日のようにその発行配布につとめ、七・一五職場集会の敢行に向けて数々の情宣活動を行った。

前記のような取り組みを経て東北支部は、同月一四日全気象中央執行委員会から七・一五最終指令(七一―二)を受けて、傘下各分会にかねて予定のとおり七・一五職場集会に突入するよう指導し、特に仙台分会については、七月一四日、東北支部・仙台分会合同執行委員会を開催のうえ、仙台分会が企画していた勤務時間にくい込む職場集会の実施につき具体的指導を行った。

4  仙台分会の本件職場集会に向けての活動

仙台分会執行部は全気象中央本部の方針をうけ、六月一四日から同月一九日にかけて本件職場集会開催の体制確立のためと称し、いわゆる一票投票を実施し、全分会組合員中の約六六パーセントの賛同を得たが、その後も引き続き組合員に対し、より強力に参加を訴えるため、同月二四日仙台分会内に被控訴人浅野の呼びかけで青年行動隊を組織して、もっぱら本件職場集会に向けての情宣活動に当らせる等したほか、本件職場集会貫徹に向けて、職場集会参加署名運動(仙台分会執行部は七月五日から八日にかけて、全組合員に対し、本件職場集会に参加する旨の決意表明を求めて、職場集会参加署名運動を行い、組合員の参加の意向を一層助長させた。)、七・一五スト総決起集会の開催(仙台分会執行部は、七月九日仙台管区気象台会議室において「七・一五ストライキ成功のための総決起集会」と称して分会集会を開催し、組合員五五名を参加させて本件ストライキ体制の確立を宣言し、ストライキに対する意思固めをした。)、国公共闘の統一リボン着用(仙台分会執行部は、七月九日から全組合員に配布した国公共闘の統一リボンを着用させて闘争意識を盛り上げた。)、各種ビラの配布(仙台分会執行部は、かねてから分会機関誌「うもれぎ」をはじめとする各種組合関係ビラを組合員に配布し、本件ストライキの成功を訴えていたが、七月に入ってからは、スト前日の七月一四日まで連日のようにその発行配布に努め、その中で本件ストライキ敢行に向けての意思固めを行った。)、職場オルグ(仙台分会執行部は、六月八日ころから七月六日ころにかけて支部執行部の応援を得ながら連日のように、班集会の開催や職場オルグを行い、本件ストライキに向けての意思統一をはかりストライキ参加を呼びかけた。)等の活動を展開した。

5  本件ストライキに対し仙台管区気象台当局がとった措置

(一)  スト中止要求警告等

前記のような仙台分会の動きに対し、仙台管区気象台長は、六月二一日と七月九日及び一三日の東北支部との団体交渉の席上、同支部並びに同席した分会各役員に対し、本件ストライキの中止を求めたほか、同月一四日、東北支部執行委員長に対し警告書をもって違法な勤務時間内職場集会を行うことのないよう自重を求め、もし、これを行った場合は、関係法令に基づき必要な措置をとらざるを得ない旨を警告し、また、職員に対し、右同旨の運輸事務次官名の「職員のみなさんへ」と題する文書を印刷配布するとともに、これを庁舎掲示板に掲示して本件職場集会の不参加を要望するとともに、違反したときの措置について警告を行った。

(二)  集会場の使用不許可

七月一日、控訴人浅野から庁舎等管理責任者である仙台管区気象台総務部長に対し、終了時間を記入しないまま組合集会開催のためと称し、同月一五日午前八時から一号庁舎正面玄関前広場(以下「本件集会場」という。)の使用許可を求める旨の庁舎等の目的外使用許可申請書が提出された。

これを受けて、仙台管区気象台では、組合の動向をみていたが、場所を中庭と指定して条件付でこれを許可しようという方針を決定し、田中総務部長は、同月一四日午後五時一五分ころ控訴人浅野に対しその申請にかかる本件集会場(玄関前広場)の使用は許さない、使用時間は絶対に勤務時間にくい込まないこととする二点を条件として中庭の使用を認める旨の通知をした。しかし、同日午後九時ころ本庁に連絡したところ、全気象の今回の職場集会は勤務時間にくい込むということが明らかになったので、会場等の使用許可を与えないようにという指示を受けて、再度従来の交渉経緯等を自省した結果、本庁の意見と同様全面的に不許可とすることとして、同日午後一〇時ころ、勤務時間にくい込まないという確約が得られないので、先にした中庭の使用許可は取り消す旨を控訴人浅野に通告した。更に、翌一五日午前七時五〇分ころ田中総務課長は、控訴人浅野に対し、「集会場の使用許可は取り消されたので使ってはならない。」旨申し伝えたうえ、その旨記載した田中総務部長名の文書を控訴人浅野に手交しようとしたが、同控訴人はこれを拒み受領しなかった。控訴人浅野は、一四日の午後一〇時一五分ころと一五日の午前七時五二分ころ、数名を帯同して、総務部長室に至り、同総務部長に対し、会場の使用許可を取り消したのは不当であるとの抗議をし、一五日午前八時すぎ後記のとおり会場使用の許可のないまま本件集会場を使用して、本件職場集会を強行開催した。

6  本件職場集会の実施状況について

(一)  本件職場集会は、昭和四六年七月一五日、庁舎管理者の許可なく仙台管区気象台一号庁舎正面玄関前広場を使用し、午前八時五分ころから同四八分ころまで継続して勤務時間にくい込み、約四〇名の組合員ら(そのうち、当日午前八時三〇分から勤務することを要する組合員は二一名)を集めて開催されたものであるが、その経過は次のとおりである。

午前八時五分ころ、右組合員らが参集したので、まず内池仙台分会書記長が演壇に立って開会宣言を行い、本件職場集会が開始された。

以後同書記長の司会の下、角野東北支部副委員長の演説や日本共産党来賓(松本仙台市議会議員)のあいさつがあり、続いて午前八時一一分控訴人浅野が演壇に立ち数分間にわたり当局の態度に対する批判や、本件職場集会の成功をたたえる等の演説を行った。その後、浜田東北支部執行委員などによる全気象中央執行委員長のメッセージ朗読や、激励電報の披露、青年行動隊の結成及びその活動報告等があったのに続いて、午前八時三〇分ころから同四五分ころまで控訴人牛来が演壇に立ち、東北支部書記長としての立場において本件職場集会の経過報告を行ったり、集会状況等の現認のため、集会場付近に姿を見せた管理者らに対し、自ら音頭を取って集会参加組合員に「不当な干渉するな。」「課長は帰れ。」等のシュプレヒコールを行わせる等した。

控訴人浅野は、前記のとおり集会場に管理者らが現認のため姿を見せたことに関し、仙台管区気象台長に対し抗議をして本件集会場に戻ってきたうえ、控訴人牛来の右経過報告等の後、演壇に立って、同気象台長に対し抗議に及んだこと及び抗議の内容結果等について報告を行った。続いて浜田東北支部執行委員が演壇に立ち、要求書を読み上げ、終わりに「団結がんばろう。」等と音頭を取って参加組合員によるシュプレヒコールを行わせ、最後に控訴人浅野が午前八時四八分ころ再び演壇に立って閉会の宣言を行い、本件職場集会が終わった。

(二)  午前八時三〇分になっても本件職場集会が解散に至らず、なおも継続される状態であったので、仙台管区気象台長は、田中総務課長に対し、組合員及び組合役員に対する違法集会の解散命令並びに組合員に対する就業命令の伝達を指示した。そこで、田中総務課長は、午前八時三一分ころ庁舎正面玄関から外に出て右命令を伝達すべく同玄関口まで来たところ、柿崎、安田ら数名の支部執行委員に進路をふさがれたので、同人らに仙台管区気象台長の右命令を伝え、直ちに集会を解散し、組合員を就業させるよう申し向けたが、同人らは、右命令に応ずるどころか、同課長に対し口々に「不当干渉するな。」、「帰れ。」等と騒ぎたて、同課長の進路に立ちふさがって、同課長を玄関口から外に出ることを断念させた。

二  控訴人らは、国家公務員につき争議行為を禁止した国公法九八条二項の規定は憲法二八条に違反する旨主張する。

しかし、国公法九八条二項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは、既に最高裁判所の判例(昭和四八年四月二五日大法廷判決 刑集二七巻四号五四七頁)とするところである。

控訴人らの右主張は採用することができない。

三  国家公務員が争議行為を行った場合には、国公法九八条二項の規定に違反するものとして同法八二条一項の規定による懲戒処分の対象とされることを免れないものと解すべきである。

したがって、同法八二条一項の規定の適用にあたり、同法九八条二項の規定により禁止される争議行為とそうでない争議行為との区別を設け、更に、右規定に違反し違法とされる争議行為に違法性の強いものと弱いものとの区別を設けて、同法九八条二項の規定に違反するとして同法八二条一項の規定により懲戒処分をすることができるのは、そのうちの違法性の強い争議行為に限られる旨の控訴人らの主張は失当である。

四  控訴人らは、人事院勧告の完全実施を求める争議行為は国公法九八条二項にいう争議行為に該当するものでない旨主張する。

しかし、人事院勧告の完全実施を求める争議行為も国公法九八条二項にいう争議行為に該当するものと解すべきである。したがって、その責任を問うことができるものである(最高裁判所昭和六〇年一一月八日第二小法廷判決民集三九巻七号一三七五頁)。

控訴人らの右主張は採用することができない。

五  控訴人らは、国公法九八条二項が禁止の対象とする「争議行為」とは、業務の正常な運営を現に阻害し、もしくは、阻害の具体的危険を有するものに限定されるべきものであるとし、本件職場集会は具体的な業務の遂行に支障を与えていないから、争議行為に該らない旨主張する。

しかし、控訴人らが行った勤務時間内の本件職場集会はそれ自体業務の正常な運営を阻害する行為であると解するのが相当である。

このように解すべきことについては、前掲最高裁判所昭和六〇年一一月八日第二小法廷判決が、原審の「国公法九八条二項の争議行為の要件として業務阻害性を要するものとしても、国家の業務はその性質上国民生活に密着しており、その停廃は国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼし、あるいはその恐れがあることを考えると、国公法九八条二項の争議行為が成立するためには、具体的な業務阻害の発生を必要とするものではなく、その発生の抽象的危険性があれば足りるものというべきであるから、勤務時間内の職場大会はそれ自体業務の正常な運営を阻害する行為であると解するのが相当である」とした判断(大阪高等裁判所昭和五七年二月二五日判決 行裁集三三巻一・二号二〇七頁)は、正当としてこれを是認することができるとした趣旨に徴して明らかである。

控訴人らの右主張は採用することができない。

六  控訴人らは、本件職場集会はいわゆる出勤簿整理時間中に行われたものであり、職員はその時間中の職務に従事する義務を免除されている旨主張する。

しかし、国公法に規定する一般職に属する職員の勤務時間及びその割振は、法律及びその委任に基づく人事院規則等によって定めることとされ、右法規に基づかないでこれを変更することは認められていないものというべきである。したがって、官署の長が出勤簿管理の必要上もうけた出勤簿整理時間の設定によって、職員に対しその勤務時間を短縮し、その時間中の職務に従事する義務を免除したものと解することはできないものといわなければならない。また、このような出勤簿整理時間と称する取扱いが相当期間継続して行われてきたものであるとしても、右時間中の職務に従事する義務を免除するという内容の慣行が成立したものとみることもできないといわなければならない。このことは既に最高裁判所の判例(前掲昭和六〇年一一月八日第二小法廷判決)とするところである。

控訴人らの右主張は採用することができない。

七  控訴人らは、争議行為に参加した個々の組合員たる職員に対しては争議行為を理由として懲戒処分をすることが許されない旨主張する。

しかし、労働者の争議行為が集団的行動であるとしても、その集団性のゆえに、参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではないこと、したがって、違法な争議行為に参加して服務上の規律に違反した者が懲戒責任を免れえないこともまた、既に最高裁判所の判例(昭和五三年七月一八日第三小法廷判決 民集三二巻五号一〇三〇頁)とするところである。

控訴人らの右主張は採用することができない。

八  控訴人らは、本件各懲戒処分は処分権の濫用である旨主張する。

しかし、国家公務員につき国公法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶべきかは、懲戒権者の裁量にゆだねられているものと解すべきである。したがって、裁判所が懲戒権者の裁量権の行使としてされた当該公務員に対する懲戒処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか、又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と右処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、それが社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。このことは既に最高裁判所の判例(昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決民集三一巻七号一一〇一頁)とするところである。

そこで、右の見地に立って、前記の事実関係に基づき、本件各懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠くものと認められるかどうかについて検討するに、本件争議行為の規模、態様、その目的、これによる影響、控訴人らの本件争議行為への関与の程度のほか、控訴人らに対する処分内容がいずれも戒告にとどまるものであること等に照らすと、本件各懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠くものということはできない。他にこれを認めるに足る事情も見当たらない。したがって、本件各懲戒処分が懲戒権者にゆだねられた裁量権の範囲を超え、これを濫用したものと判断することはできないものといわなければならない。

控訴人らの右主張は採用することができない。

九  控訴人らは、本件争議行為の当時はいわゆる合理的限定解釈論に立脚する全逓中郵事件判決等の判例下にあったものであるとし、本件懲戒処分は判例によって形成された公務員労働者の団体上の行動規範に反するものである旨主張する。

しかし、これらの合理的限定解釈論を展開した最高裁判所の判決は、公共企業体等労働関係法、地方公務員法に違反する争議行為について、一率に刑事制裁を課することの許否を論じたものであって、それらの行為に関する民事責任、懲戒責任の存否を判断の対象としたものではないばかりでなく、その判文上、刑事責任を問い得ない場合においても、民事責任、懲戒責任の追求は可能であることが示唆されているとみられるものである(最高裁判所昭和四一年一〇月二六日大法廷判決(刑集二〇巻八号九〇一頁)は、労働基本権の制限違反に伴う法律効果については、必要な限度をこえないように、十分な配慮がなされなければならず、特に、勤労者の争議行為等に対して刑事制裁を科することは、必要やむを得ない場合に限られるべきであり、同盟罷業、怠業のような単純な不作為を刑罰の対象とするについては、特別に慎重でなければならないとし、同昭和四四年四月二日大法廷判決(刑集二三巻五号三〇五頁)は、被告人らに対し、懲戒処分をし、また民事上の責任を追及するのはともかくとして、被告人らのした行為(一日の一せい休暇斗争を行うにあたり、被告人らが組合の幹部としてした斗争指令の配布、趣旨伝達等の行為)は刑事罰をもってのぞむ違法性を欠くものと判示している。)。

控訴人らの右主張は採用することができない。

一〇 控訴人らは、公務員の争議行為の規定はILO八七号条約等に違反し、したがって、憲法九八条二項に違反する旨主張する。

しかし、その主張する結社の自由及び団結権の保護に関する条約(いわゆるILO条約)は公務員の争議権を保障したものではないので(争議権とは関係がないものとして採択され批准されたものである。)、控訴人らの憲法九八条二項に違反するものである旨の主張は、その前提を欠くものというべきである(最高裁判所昭和六一年(行ツ)第六二号平成元年九月二八日第一小法廷判決)。

控訴人らの右違憲の主張は失当である。

よって、控訴人らの被控訴人らに対する請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

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